2　後継経営者に自分と同じ素質は期待できない。

さて、素人経営にもかかわらず、現経営者の皆さんは、実に見事に会社を発展させてこられた。
それは何故だろうか。『誰がやっても真面目に努力しさえすれば、経営できた時代』という表現は、勿論言葉の綾である。企業経営が誰にでも出来るような生易しいものでないことは明らかである。
それにもかかわらず現経営者の皆さんが成功して来られた理由の第一は、やはり、生来備わっていた資質の高さであろうと思われる。
旺盛な事業欲や、不屈の闘志、或いはねばり強い根性という表現で示される資質や、計数管理能力、人心掌握力、説得力、或いは頑強な体力等、経営者として不可欠な幾つかの資質が高い適性で備わっていたという事に他ならないであろう。
では、自分の次に来る者の適性はどうか？やがて現経営者は、誰かにその事業を引継いでもらわなければならない。自分が、その人生をかけて育てて来た事業を誰かに引継いでもらいたいと考えるのは、人情であるし、またそうでなくとも、企業というものは、人間と同じで、一度この世に生れ出た以上は、その企業の社会的存在価値が消滅しない限り、できるだけ健全に存続させねばならぬものであるし　従業員のために、常客や取引先のために、或いはまた企業の経営に力を貸してくれた株主をはじめとする諸々の人達のために、できる限り健全に存続させる事、それ自体が経営者の使命である。とすれば、その使命を全うし得る人物に事業を引継いでもらわなければならない。
しかし、自分の次に来る者の資質が、自分以上に経営者としての適性に富んでいるという可能性は極めて少ない。
誠に遺憾ながら、自分の息子や会社の従業員の中に現経営者以上に経営者としての生来の資質に富んでいる者が存在して、経営のバトンを渡したい時期に間に合ってくれるという事は、大変稀有な事態なのである。ここに後継経営者の育成を、極力計画的に、かつ確固たる理念と、周到な準備の下に実施せねばならない理由がある。