ヒューマンバリュースキル

8 息子(身内)を後継経営書に育て上げるために

 後継経営者に誰を選ぶか、それは簡単である。
『最もふさわしい人物を選ぶのだ。』と述べた。それが息子であるか甥であるか、或いは全くの他人であるか等を考慮してはならないとも述べた。そうすることが、経営者として、共に働いてくれた従業員や、事業の成長に力を貸してくれた世間に対する義務だからである。
したがって、現経営者が、息子(身内の者)に後を継がせたいと考えるなら、彼は、一息子を『最もふさわしい人物』に育てあげねばならない。そしてそれは、決して息子のためにだけでなく、彼が人生をかけて育て守り通して来た事業のために、即ち自分自身のために、息子を育てあげねばならないのである。しかも中小企業においては、従業員さえおやじ(社長)の息子が後を継ぐことを当然と考え、仲間の誰かが社長になるよりはその方を好むのだから、息子が後継経営者に『ふさわしく育つ』ことはあらゆる角度から見て幸福なことなのである。
だとすれば、ある年齢以上に達した息子を持つ社長は、社長業の中の最重要事項の1つとして、息子の教育にとりかからねばならない。
しかしこの事に気づかない経営者が余りにも多いのは嘆かわしい現実である。もしこの事に気づき、現経営者が自分の仕事の内容を息子に理解してもらおうと努め、その経営観や使命感を語りかけることを、日々の生活の中で実践したとするならばそれだけで、ほとんど確実に後継経営者の育成は成功を収めると言っても過言ではないであろう。
息子がある年齢に達したら!というのは、高校1~2年生になればというように考えている。
勉強に精を出さねばならない息子と、事業に人生を賭けているおやじとの間に必ず相通じ理解し合える部分が生まれる。
人生という一本の同じ道の上を2人とも歩んでいるのだということが実感し合えるところまで、おやじは息子に働きかけねばならない。
それが、息子を後継経営者に育てあげるための第一条件である。
ただここで、念のために申し上げておきたいのだが、おやじである現経営者が、その人生を事業に賭けておらず、使命感を持たず、仕事に生きがいを感じてないとすれば、全ては無意味である。息子への語りかけは、単なる苦労話や、押しつけの人生話に堕ちてしまう。
従って、息子は『父親の人生』即ち『経営者の人生』に共感しない。父親の生きざまに共感しない息子が優秀な後継経営者に育つことが困難ののは当然ではないだろうか。
だから、ここで申し上げたいことは、もし自分の息子が後継経営者として適格な人物に育っていないとすれば、その責任の大部分は、現経営者自身にあるということだ。おそらく現経営者は、ここで言う程真剣に後継者教育にとり組まれなかったか、さもなければ、息子を共感させ得るに足るだけの経営者としての人生を送ってこられなかったのだと考えるのが、正当であろう。大変厳しい事を言うようで恐縮だが、それは、既に述べて来た経営者に必要な3要素の内、特に『経営理念の実現に対する情熱』或いは『経営者としての使命感』といった最も重要な要素に欠けていたのであろうと思われる。
経営者として、従業員に対して、或いは株主、一得意先に対して、より大きくはこの社会に対して、確固たる使命感を持ち、その使命感を果たすために情熱を燃やすという人生を送って来られた経営者であれば、そしてそのような経営者が自分の息子に真面目に働きかけられたとすれば、息子がおやじに共感を覚えないはずがないからである。

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