ヒューマンバリュースキル

6 後継経営書には息子(身内の者)が一番向いている。

   前述において、経営者にとって必要な能力として2つの事柄をあげた。即ち、
(1)自社の現状を正確に認識し、今自社は何に向かって経営努力を傾注すべきであるかを見抜く能力。
(2)経営努力を傾注すべき方向へ向けて、全社の力を動員し結集させて行く能力。
である。そして、この2つの能力を備えるためには、次の3つの要素、
即ち
 ① 経営全般に対する各種専門知識の修得
 ② その専門知識を実践に適用して得た体験
 ③ 経営者としての理念の実践に対する情熱(使命感)
が、満たされねばならないことを説明した。
そして、更に、この3要素の中でも、後継経営者にとって最優先されるべきなのは③であり、次に①、そして最後に③であることを付け加えたのである。その理由は、『経営者としての使命感』に燃えている人間であれば『経営についての専門知識』を懸命に学ぼうとするのであろうし、また学んだ知識が必ずや身につくであろう。それに、そのような人物の下でなら精一杯やってやろうというような力量のある部下が、徐々にではあっても集まってくれて、彼を助けてくれるにちがいないからである。成功された多くの経営者の下には、必ずと言って良い程、ある面ではその経営者以上に優秀な部下が何人も控えている事実が、この間の事情を物語っているであろう。
 また『経営体験』は、優秀な経営者になるためには、絶対必須の要素であるが、後継経営者として必要な要素としては、3番目で充分なのである。何故なら、彼は、これからいくらでも『経営体験』を積むことができるのであり、もし経験が不足しているため当面の経営に不安があると言うのなら、しばらくの間は現経営者が見守ってやれば良いからである。さて、このように見てくると、後継経営者として必要な3要素は、少なくとも中堅中小企業においては、現経営者の身内(それも特に息子や兄弟)に最も備わっていそうに思われる。というのは、現経営者の身内のみが『経営者としての使命感』や、『経営に関する専門知識』等を身につける機会に恵まれているのであり、その他の人々に、そんな機会が訪れることは極めて稀だからである。
しかるに現経営者の息子が、後継経営者として不適格であることが、余りにも多いのは、何故であろうか、これを考えるために従来採用されている後継経営者育成の方法を見てみるといくつかのパターンに分けることができる。
それは、
① 自社に入社させて自ら実践の場で教育する。
② 自社に入社させて、一通りの仕事を覚えさせながら、番頭格の人物等に教育させる。
③ 他所に勤めさせて、鍛えてもらう。
の3つであるが、通常はこの3つの方法が単独に、或いは、組み合わせて採用されているようである。しかし、この3つの方法ではどれをとっても後継者が経営の専門家に育ってくれる可能性がない事は、明白である。従来の方法で期待されている内容というのは、せいぜい自分の会社の仕事を覚えさせるとか、他人の飯を喰わせるといった程度のものであり、それは経営の専門家にするために充分考えられた育成方法とは全くかけ離れたものなのである。
何故であろう。後継経営者育成というこの上なく重要な事業が、何故かくもいい加減なやり方に委ねられて来たのであろうか。

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